流氷ダイビング体験記


 98年3月4〜6日の3日間、北海道のウトロへ流氷ダイビングに行ってきました。流氷ダイビングとは、氷に開けた穴から潜水するというもの。水温は0度を下回る(海水なのでマイナスになる)という過酷な環境です。
 「何でわざわざめちゃめちゃ寒いところで潜るんや?」と言われますが、それはもちろん人のやらないことをやってみたいがため。氷の海で潜った経験を持つダイバーなんてほとんどいないでしょう。

ここで潜りました。注釈ないと分からないと思うけど、これ、海の上です。完全に凍り付いてます。

 当日は幸いにも天気は晴れわたり、気温も1度と暖かく、絶好のダイビング日和(?)でした。
 水温はマイナス2度。寒さ対策のためにフリースのインナーだけでなく、下に綿の厚めのシャツとパッチ(笑)を着込みます。綿にしたのは汗をかいたときに吸収がいいから。いくら寒いとはいえ、陸上で機材を運んだりする間に汗をかくこともあり、毛や化繊では汗が冷えてかえって寒い。また、フードと手袋は内側スキン、ドライスーツは3.5ミリのネオプレーンの通常タイプ。
 これでどれだけのウェイトが必要になるかというと、なんと16キロ! 僕がドライスーツを着るときは8〜9キロなので何と倍の重さです。いっぺんこけたら、自力で立ち上がるのが大変。
 しかも氷で閉ざされた海なので深くは潜りません。せいぜい水深4〜5メートルのところで活動するため、中性浮力をとるのがすごく難しいのです。慣れた人ならドライスーツの中にたっぷり空気を入れて、ドラエモンみたいなかっこうで潜ったりするそうですが、とてもまねできないです。

 レギュレータは寒冷地専用タイプ。これらは地元サービスからのレンタルです。通常のレギュレータでは凍り付いてしまうため、吐き出した息の熱で温められるという特別な仕組みのレギュレータを使います。事前ブリーフィングで注意されたのは、陸上でパージボタンを押さないこと。水中ではすぐに凍り付くことはないけど、陸上ではあっという間に凍り付き、エアが出っぱなしになってしまうため。実際やってみたけど、確かにエアが止まらなくなります(笑)。元に戻すにはヤカンのお湯をぶっかけて氷を溶かします。

チェーンソーで開けた穴からエントリー。

 マイナス2度の海の感想ですが、想像していたほど寒くはありませんでした。真冬に伊豆の海に潜るのと同じインナーでも大丈夫だったと思います。
 ただし、厳しかったのが肌が直接露出している部分。フードをかぶっているとはいえ、口の回りまで覆うことはできず、この部分にチクチクと針で刺されるような痛みを最初は感じます。まあそれも最初の2・3分で感覚が麻痺してしまい、すぐに寒さや痛みは感じなくなりました。
 ところが、ここでふつうのダイビングでは考えられないような事故が発生。口の回りの感覚がなくなってしまったため、レギュレータが口から外れかけていたのに気付かなかったのです。息を吸うたびにゴボゴボと水が入ってくる。ガイドがハンドシグナルで何かやっていますが、自分ではレギュレータが外れているなんて夢にも思わないから、意味がさっぱり分からない。レギュレータの調子が悪いのかなと思いこんでいる。結局はガイドにレギュレータを口に押し込まれ、初めて水が入ってくる原因に気付きました。それからは片手でずっとレギュレータを押さていました(笑)。

水中から氷を見上げたところ。白く光っているのはエントリーのために開けた穴ですね。

 実際に潜っていた時間は1本目は12分、2本目が20分です。1本目が短いのはレギュレータが外れるという事故で大量に水を飲み、気分が悪くなってしまったため。それでも2本目の20分が人間の限界でしょう。
 真冬の知床の海は静かでした。大きな魚はまったくおらず、フーセンクラゲやクリオネ、ミズグモなどがプカプカと浮かんでいるくらい。クリオネを見たといっても、小指の先くらいしかないほど小さいのであんまり感慨はなかったです。
 それより水中から見上げた氷の美しさが印象的でした。特に、天気が良い日だったので、氷を通して射し込む光がなんとも表現できない味わいをかもしだしています。
 流氷はけっして真っ平らな氷ではなく、大小さまざまな氷がいくつも折り重なってできているものなので、ところによって厚さがまったく違ってきます。上から見ると真っ白で気付きませんが、下から見ると光がまだら模様になって、流氷のできる仕組みがよく分かります。また、氷を近くで観察すると表面がシャーベット状になっていて、氷が少しずつ成長していることが分かります。
 流氷ダイビングの面白さは、氷を見ることにあると思います。機会があればまたぜひ行きたいですね。

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